起立性調節障害
概要
起立性調節障害(orthostatic dysregulation: OD)は、自律神経のバランスに異常をきたした結果、起立時に脳への血流が低下して様々な症状を呈する病態です。
小学校高学年から中学生の思春期に多く発症し約5~20%に症状が出現すると言われています。女子の方が多いですが男子にも発症します。
主な原因
自律神経の異常
脳の自律神経中枢の機能が悪くなり、交感神経と副交感神経のアンバランスが生じ様々な症状を呈します。
ストレス
過度なストレスが数ヶ月以上持続してストレスを溜めこむことで発症することが多く、約80%がストレスによる心身症といわれています。
遺伝的要因
遺伝的な要因についても発症に関与しているという報告もあります。
ホルモンバランス
思春期の子供に多く発症することから、ホルモンバランスが影響して発症するともいわれています。
食事・生活習慣
不規則な生活や食事、睡眠、長時間のスマートフォンやゲーム機の使用も要因とされています。
症状
立ち眩み、めまい、倦怠感、動悸、朝起き不良、腹痛、吐き気、食欲不振、頭痛、乗り物酔いなど多彩な症状が出現します。
また、約半数が不登校を合併します。
診断
症状から
- 立ち眩みあるいはめまいを起こしやすい
- 立っていると気持ち悪くなる、ひどくなると倒れる
- 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸あるいは息切れがする
- 朝なかなか起きられず午前中に調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 臍周囲の痛みを時々訴える
- 倦怠感あるいは疲れやすい
- 頭痛
- 乗り物に酔いやすい
検査から
- 起立試験(血圧と心拍数の変化)
- 血液検査(必要に応じてほかに病気がないか検査します)
一般的な治療
非薬物療法
睡眠とバランスの良い食事をとるように、というものの深夜~早朝に寝て(眠れないため)昼に起き、朝食は摂れずに昼食も食欲がない、という生活になりがちです。
可能な範囲で以下を実践しましょう。
- 起床:あまり早く起こさずに登校に間に合う時間の30分ほど前に声をかけ、カーテンを開けたり照明を点けます。少し目が覚めたら下肢をクロスさせたり寝たまま自転車をこぐような動作をして血流を良くします。その後、少しずつ頭を持ち上げていきます。また、圧迫ストッキングを着用して脳への血流を増加させる方法もあります。
- 朝食:起きたら登校前に少しでもいいので何か食べたり飲んだりします。
- 運動:登校できない場合、日中に15~30分程度散歩でもいいので体を動かしましょう。
- 食事:塩分を普段の1.5倍程度(1日10g程度)、水分を1日1.5L程度摂るようにしましょう。特に暑くなる5~6月以降はしっかりと摂取しましょう。
- 昼寝:日中、横になって昼寝しないようにしましょう。
薬物療法
ガイドラインでは起立試験の結果により、塩酸ミドドリン、メチル硫酸アメジニウム、プロプラノロールを用いて治療することが記載されています。
心理的サポート
起立性調節障害の約80%が精神的ストレスによる心身症としての症状であり、50~60%に不登校がみられます。この精神的ストレスを解消させる目的でカウンセリング療法が勧められています。
当院の治療方針
問診、診察、生活指導、治療方針について時間をかけて行いますので、必ず「元気っ子外来」で予約してください。
- 血液検査:ほかの病気がないか確認するために行います。そのため初診の方は金曜日の14時台~16時台、土曜日の13時台に予約してください。
- 起立試験:当院では”新起立試験”は行っていません。また、以下の理由により従来の”起立試験”もあまり行っていません。起立性調節障害は、思春期に表れやすい自律神経のバランス異常が精神的ストレスにより発症する心身症として捉えています(80~90%程度)。そのため、治療の本質は血圧や心拍の調整をすることだけではないと思っています。起立試験(新起立試験)の目的は重症度と塩酸ミドドリン、メチル硫酸アメジニウム、プロプラノロールを用いた治療が前提となっているからです。
- 就寝:小学生は遅くても22時までに、中学生は23時までに寝るようにします。寝る時間が遅い場合は1日5分ずつ早く布団に入るようにしましょう。急に早く寝ることはできませんので少しずつ体を慣らしていきましょう。1週間で30分早くなります。
- スマートフォン、ゲーム:決めた就寝時間の2時間前から見ないようにしましょう。就寝直前まで見ていると十分な睡眠が阻害され朝の目覚めが悪くなることがあります。
- 入浴:決められた就寝時間の1.5~2時間前に入りましょう。睡眠しやすくなります。
- 治療の主眼:当院では塩酸ミドドリン、メチル硫酸アメジニウム、プロプラノロールを用いた治療はほとんど行っていません。一部の方はこれらの薬剤が効果的ですが、上記に示した80~90%の方は精神的ストレスによる心身症であるため、これらの薬剤では効果が認められません。当院では漢方薬による治療に加えて「心のケア」に重点を置いています。症状の基になっている部分を解消することが症状改善の近道となります。心理カウンセリングが必要と判断した場合には、学校カウンセラーや当院のカウンセラーをお勧めしています。
漢方薬の効果は早いと数日で表れます。心を穏やかにしたり、睡眠しやすくしたり、頭痛や吐き気を緩和させたりすることが可能です。